※amazonより引用
ついに池井戸潤さんの小説、半沢直樹シリーズ第四弾「銀翼のイカロス」が文庫化しました。小説はハードカバーでは普段読まないので、文庫化を待望しておりました。早速購入して、休日に一気に読み、待望した甲斐のある見事な作品だったので感想をばと思い、こうしてブログに書きとめようと思います。※多少のネタバレは含みます。
やられたらやり返す。倍返しだ!
ドラマ「半沢直樹」で有名なこのセリフ。私は半沢直樹シリーズを文庫本から読んでいましたが、後になってドラマ版を見ると、まあそちらも面白い。原作よりもずっと深刻な雰囲気で進行していましたね。そんなドラマ版で多用されているこの台詞ですが、原作ではそこまで多用されません。ただ、コンセプトは同じ「やられたらやり返す。倍返しだ!」なんです。
とりあえず、あらすじ
文庫本の裏表紙丸パクリですが。
出向先から東京中央銀行本店に復帰した半沢直樹に頭取から大仕事が降ってきた。破綻寸前の航空会社、帝国航空の再建を担当せよというのだ。だが折しも政権が交替。新政権の国土交通大臣は野心にみちた女性閣僚は帝国航空再生タスクフォースを起ち上げ、半沢たちに巨額の債権放棄を要求してきた。
500億円もの借金の棒引きなんてとんでもない! だが相手が大臣ではさすがの半沢も容易に突破口を見いだせない。しかもなぜか銀行上層部も半沢の敵に回る。この一件のウラには何があるのか? かつて半沢と舌戦をくりひろげた「金融庁一の嫌われ者」、オネエ言葉の黒崎駿一の思惑もカラみ、銀行に隠された大きな闇も見え隠れする。
果たして半沢の運命やいかに?
第二弾「オレたち花のバブル組」の最後に出向を命じられ、第三弾「ロスジェネの逆襲」でもまた痛快にやり返した、無事営業第二部 次長に返り咲いた半沢直樹。今回はその後の話ですね。
やっつけるべき悪者が一目瞭然
半沢直樹シリーズというか、池井戸潤さんの小説は悪者がきちんと悪者然としていて一目瞭然なのが、一番の魅力だと思います。悪者と正義が闘う王道的な展開が、この痛快さを毎度生み出していると言えます。
今回の作品でも開始30ページほどで悪者が出てきます。曽根崎という小者です。この小者には後ろ盾が存在し、それが紀本常務という人物です。彼はドラマにもあった大和田常務の後任です。小者の後ろにはメインの悪者がつきものです。紀本は今回のメイン悪者の一人です。
そして50ページ付近で乃原というまた別のメイン悪者が出てきます。
「銀行は所詮、こういう案件についてはトーシロなんだから、外で見てればいいんだよ。我々のやり方に口出しできるノウハウなんか、どこにもないだろうが」
乃原が半沢に放った発言です。乃原が出てきて直後の発言です。場面は想像できずとも、見事に悪者っぷりが漂っているでしょう? あ、こいつ悪者だって瞬時に分かります。悪者の発言は共通して、私利私欲的であり具体性の欠片もなく非論理的な感情論でまくし立てる、という点が見られます。そこを主人公(半沢直樹)が論理的で痛快な発言で論破し、相手がぐうの音も出なくなる、というのが非常に小気味良いです。
とことん貫いた正義こそ痛快である
半沢直樹というのは筋を徹底的に通す人物像である。良いものは良い、悪いものは悪いと、徹底的に断じます。まさに正義の権化です。
正義というのは、貫くのが難しいと思います。様々なしがらみがあるからです。外から見たら銀行という一組織でも、組織の中は様々です。作中に出てくる東京中央銀行も二つの銀行が合併してできた組織であり、元の組織で醸成してきた風土が融合することなく依然として存在するような組織です。当然一枚岩ではなく、様々なポストの人間がその立場以上の欲を働かせて、組織内での責任の所在について追及し、そして私利私欲のためにそれを組織としての対応に反映させようとします。今作でもそういった私利私欲で組織の決定が裏から操られます。
「自分だけが難しい問題を抱えているわけじゃない。大銀行だろうと、個人商店だろうと、そんなことは関係ない。法律以前に守るべき人の道ってのがあるでしょう。まっとうな商売してなんぼですよ。そうじゃないっていうのなら、トイチの違法金融と同じだ。銀行の看板なんか降ろしたほうがいい。」
作中の富岡さんのお言葉です。半沢直樹の先輩にあたる人です。半沢と同じくらい、正義を貫く人です。今作ではこの人の言葉がびびんときました。格好いいですね、そして正義を貫くのは本当に難しい。世論や外の正義と闘うのと同じくらい、身近な環境として存在する組織内の問題とぶつかるのは神経が磨り減るようなところだと思います。そんなことはお構いなしで、半沢がド正論を振りかざして社内に切り込んでいくのは本当に痛快です。
敵が味方になり、成長するキャラクター達
山久さんという、帝国航空の財務部長がいます。初めは半沢達銀行に対して否定的でした。航空という国にとって無くてはならないインフラであるというプライドが社員に蔓延しており、なんというか面倒くさい人達が今回の話に出てくる融資先企業の人間です。
そんな山久さんですが、最後にこんな言葉を残しています。
「自宅から空港までハイヤーでの送り迎えは当たり前。帝国航空勤務だといえば世間からうらやましがれ、給料も高けりゃプライドも高い。(中略)私たちは、お客様を見ていなかった。あれだけ飛行機が好きだったのに、入社して社員になると、飛行機を飛ばす自分たちの会社はいつも自分たちの”敵”であり闘いの対象者だった。こんな滑稽な話はありませんよ。挙げ句、政治の道具にされ、経営判断の甘さが次々に露呈しても、誰も危機感さえ抱かない。そんな会社になってしまったんです。」
下町ロケットの材前部長然りですが、主人公の熱が伝わっていくというか、最初の印象とは真逆で、塩らしく根本の想いに戻るキャラクターが何とも言えません。こうやって、仕事に対する熱い想いが根本にあるって良いですよね。そうした純粋な気持ちで私も働きたい…。
続編は・・・?
意味ありげなラストでした。これで終わりってことはないでしょう。ただ、池井戸潤さんはお忙しい人ですから、根気よく待つしかないですね。。次回も、半沢節で痛快な物語を期待しています。